白川静さんに学ぶ 漢字は楽しい


白川静/監修 小山鉄郎/編 共同通信社


我が国の漢字研究の第一人者、白川静氏の遺作です。執筆は白川氏の弟子に当たる小川鉄郎氏。
白川氏の代表作といえば「字訓」「字統」「字通」の3部作が有名ですが、本作はそれらと比較するとずっと砕けた感じの平易な文章で書かれており、要求される予備知識のレベルもずっと低くなっています。
元々新聞に連載されていたコラムをまとめたもののようです。
とは言え、内容は紛れも無く白川氏の研究成果の集大成の一端であり、漢字の成り立ちと本来秘めていた真の姿を次々と解き明かしてくれます。
金文や甲骨文字にまで遡って字形の変遷を辿り、古代中国の呪術的・宗教的思想が漢字を産み出して来た過程が判りやすく、かつ冷徹に読者に示されます。
どれも興味深い内容で、是非多くの人に一読して頂きたいと思いますので敢えてこの場で例示することは避けます。


本書を通じて改めて思い知らされるのは、我々が親しんでいる漢字というものの本質が、実は古代の大国の呪術に端を発した紛れも無い外国語であるということです。
表記の大部分を外来の文字に深く依存している日本語というものの危うさを感じざるを得ませんでした。
一方で、漢字の歴史は簡略化の歴史でもあります。
本書において、漢字本来の意味を無視した無闇な簡略化に対する白川氏の嘆きが度々記されています。
しかし、そういった漢字本来の意味に対する無頓着さこそが、文字が秘める呪術的意味合いを薄れさせ、単なる道具としての役割を負わせるために必要とされていたのかもしれません。
日本語の危機が叫ばれる昨今、本書は今一度漢字というものを見直す上で最適の入門書でしょう。


白川静さんに学ぶ 漢字は楽しい

白川静さんに学ぶ 漢字は楽しい