学力低下は錯覚である

学力低下は錯覚である

学力低下は錯覚である

なんとも気になるタイトルです。
この手の書籍のタイトルは実際の内容からかけ離れた「釣り」であることが少なくないのですが、本書の場合はそんな心配は無用でした。
多くの場で語られる「学力低下」は、高等教育の場(特に大学)での現象としては紛れもない事実であることを認めた上で、それが「錯覚」であることが豊富なデータによって明確に論じられています。

  • 1.大学生の学力低下の実態
    • 俺たち、ゆとられちゃってますから
    • いまどきの大学生
    • 講義を見直す
    • 中学校からやり直せ
    • できる学生の受難
    • わかりやすさ至上主義
    • 学力低下は数学だけではない
  • 2.ゆとり教育学力低下の原因か
    • ゆとり教育犯人説
    • 「円周率=3」
    • 「分数ができない大学生」
    • ゆとり教育によって理解度が落ちた?
    • 国際的に見て日本の子供の学力は低下したのか
    • ゆとり教育は失敗だったのか ―フィンランドとの比較―
    • 学力が低下して見える理由
    • 縮小のパラドックス
    • 知能偏差値
    • 高等教育が必要な仕事は少ない?!
    • 恐るべき学力の低下?
  • 3.理工系離れを考える
    • 理工系離れのルーツを探る
    • 理工系への関心が下がる理由
    • 日本人はモノづくりが本当に得意なのか
    • メーカーの必要とする社員数が減少するわけ
    • 理工系学生の割合が減少する?
    • 工学部に来ない女子学生
    • 男子学生を進路変更させるのは可能か
    • 役に立つと思う教科
    • 理工系離れの象徴 ―物理離れ―
    • 物理離れの原因を探る
    • 理工系離れにバブルの影響はあったのか
    • スイッチングコストからみた進路変更
    • 理工系貧乏物語
    • 本当に生涯賃金は5,000万円違うのか
    • 「金融業=文系」?
    • 社長になるには理工系は不利?
    • 本物の理工系人間は不滅である
    • 論点をまとめる
  • 4.教育の今後を考える ―いま何をすればよいのか―
    • これからの人口推計を見る
    • 上位の大学もエリート校ではなくなる
    • 比較的上位の大学では、定員<入学者数
    • 中位レベルの大学における「入試」の問題
    • 定員割れの今後
    • 立地によってかなり異なる大学の人気
    • 地域によって人口減少の速度が違う
    • 進学率はどこまで上がるか
    • 基礎学力を高める方法 ―韓国の例―
    • 学力=やる気×知能
  • 5.望ましい教育システムとは
    • 私費負担が多い日本(国ごとに見る予算の問題)
    • 学ぶ順序や時期を見直す
  • あとがき
  • 参考文献
  • 索引

大学生の学力低下のみならず、「ゆとり教育犯人説」や国際的な比較での日本の学力順位の低下、理工系離れ、理工系と文系の賃金格差、等々、まことしやかに論じられている多くの事柄が事実誤認や錯覚に過ぎないことを、データと統計的手法を駆使して次々と解き明かしていく様は、読んでいてある種の小気味良さを感じます。
それと同時に、いかに我々が目先の数字や狭い領域の現象に惑わされているかを思い知らされ、空恐ろしさを感じざるを得ませんでした。
本書は教育分野に限って論じられていますが、そこで提示されている手法、すなわち「経験」や「感覚」に囚われることなく物事を客観的に分析する姿勢は、多くの分野において有効でしょう。
様々な物事に対する見方や、数字・データに対する接し方を見直す、良いきっかけになったと思います。