オペラ マスターのダブルタンク・パワーフィラー

ビスコンティのパワーフィラーというインク吸入機構ですが、原理はパイロットのプランジャー式と全く同じです。

尾栓のネジを緩めると、尻軸全体を引き出すことができます。
尻軸は細い棒で胴軸内のピストンと接続されており、尻軸を上下させると連動してピストンも移動します。
ピストンの移動によって胴軸内に負圧を発生させ、大量のインクを一気に吸入することができます。
原理や操作法の解説はパイロットのサイトが分かり易いです。
Q:プランジャー式万年筆のインキの入れ方について教えてください。
ここまでは単なる「パワーフィラー」の説明ですが、オペラ マスターに採用されているのは「ダブルタンク・パワーフィラー」です。

ピストンを押し込んだ状態の写真ですが、首軸とピントンがかなり離れているのが判るでしょうか?
パワーフィラー方式では胴軸全体をインクタンクとして使用しますが、ダブルタンク方式ではピストンがバルブを兼ねており、バルブによってインクタンクが二つに分けられています。
ペン芯に直接インクを供給するメインタンクはピストンより首軸寄りの部分で、胴軸の大半を占めるピストンより尻軸寄りの部分が巨大なリザーブタンクとなります。

実際にインクを吸入してみました。
ボトルから直接吸入するやり方ではタンク容量の半分程しか吸入できませんでしたが、それでもかなりの量です。
何回か水で実験した結果、インクの吸入量は2.4ml前後でした。
趣味の文具箱 vol.11の実験結果ではヨーロッパタイプのカートリッジの容量が約0.8ml、吸入式で最大容量だったパイロット カスタム823(プランジャー式)が1.59mlでしたので、オペラ マスターの吸入量がいかに多いか判ると思います。
ペン先を下に向けてインクボトルに浸すやり方では、どうしても吸入時にメインタンク部に空気が残ってしまい、容量ぎりぎりまでの吸入ができません。
ビスコンティのトラベルインクポッドを使えばペン先を上に向けた状態での吸入が可能ですので、もっと大量のインクを吸入できるのではないかと予想しています。
おそらく4ml近くは行けるのではないでしょうか。

首軸部の拡大です。バルブによってメインタンクとリザーブタンクに分けられているのがよく判ります。
メインタンクのインクを使い切ったら尾栓を緩めてバルブを開放し、リザーブタンクからメインタンクにインクを補充します。
インクの補充が終わればまた尾栓を締め、バルブをしっかりと閉めておきます。
パワーフィラーのような大量のインクを胴軸内部に蓄える方式では、外気圧の変化や温度変化により胴軸内の空気が膨張しペン先からインクが漏れる危険性があります。
ダブルタンク方式ではタンクを2つに分割することによりこの危険性を回避しています。
ペン芯に直接インクを供給するのは容量の小さなメインタンクですので空気の膨張の影響が小さく、仮にインクがタンクから押し出されても大きなペン芯で十分余剰インクを保持することができます。
空気の膨張の影響を受けやすい大きなリザーブタンクは、バルブで密閉されていますのでインクが漏れ出す心配はありません。
さて、これまで散々大きい大きいと書いてきましたので他のペンと比較してみました。

普通サイズの代表格として、パイロット カスタム74と比べてみました。
長さもそれなりに違いますが、太さの違いが顕著ですね。

キャップを後ろに装着すると更に圧倒的。
キャップだけで20gもあるので、キャップを後ろにつけた状態では重心が後ろにより過ぎてしまい、かなり書き辛いです。
キャップ無しでも十分長いので、筆記時にはキャップを外しておくことにしました。

ニブは18Kで、サイズもかなり大きなものです。
ペンポイントの研ぎは非常に滑らかで筆記時の抵抗は殆どありません。
横線が細く縦線が太い平研ぎ気味のニブです。
非常にやわらかいニブで、軽く筆圧をかけてやるだけで切り割りがぱっくりと開きます。
字幅は予想よりは控えめで、筆圧を掛けない状態では一般的な舶来品のM程度でしょうか。
但し、筆圧を少し掛けてやれば敏感に反応して字幅が広がります。
インクフローも良好で、線の強弱やインクの濃淡のメリハリが非常にはっきりした筆跡になります。
非常識に大きく重いペンですが、キャップをはずして筆記すればインク重量を加えても42g強ですので極端に重いとは感じませんでした。
流石に長時間の大量筆記は辛そうですが、元々仕事で使うようなペンではないのであまり気になりません。
プライベート用と割り切り、明るい色のインクで大きな字をゆったりと書くのがふさわしいペンだと感じました。

蛇足ですが、吸入機構の不具合やニブの調整不足、目立つ傷等は一切ありませんでした。
アウロラ以外のイタリア製万年筆、特にビスコンティといえばトラブルの総合商社というイメージがありますが、今回は拍子抜けするほど高品質です。
たまたま当たりの個体だったのか、限定品故に品質チェックが徹底されているのか、それともビスコンティの全般的な品質管理技術が向上したのかは判断できませんが、参考までに。
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