キャップの気密性

万年筆のキャップといえば、ペン先を保護し乾燥を防ぐ大事なパーツです。
乾燥を防ぐという観点では、高い気密性が要求されます。
そのため各メーカーは、インナーキャップを設けたり精緻な加工で気密性を保ったりといった工夫を施しています。
100円ショップで売られているような粗悪品ではキャップの機密性が悪い物もありますが、大半の真っ当な万年筆ではキャップの気密性は非常に重要視されていると言えるでしょう。
そんな中で、確信犯的に敢えてキャップの気密性が下げられている万年筆があります。
パーカーのソネットです。

写真では良く判りませんが、キャップ先端の黒いパーツと金具の間に隙間があり、気密性が保たれていません。
ソネットのキャップの気密性が低い理由には諸説ありますが、個人的に説得力が高いと感じる説は「負圧によるインク漏れの防止」です。
ソネットのキャップはネジ式ではなく嵌合式になっています。
ネジ式のキャップであれば、構造上必然的にキャップを開ける際にはゆっくりとした動作を強いられますが、嵌合式のキャップは勢い良く引っ張って開けられる危険性があります。
その際、キャップの気密性が高ければキャップ内の気圧が急激に低下し、ペン芯に蓄えられていたインクがペン先から引き出されて漏れ出す恐れがあります。
そのため、敢えてキャップの気密性を下げ、インク漏れを防いでいるのではないかと言われています。
キャップの気密性が低い利点は他にもあります。結露の防止です。
冬場にペン先が結露することが良くあります。
暖房の効いた室内等の暖かな場所でキャップの開閉を行うと、暖かくて水分を多く含んだ空気がキャップ内に閉じ込められます。
その後、屋外や夜間に気温が下がるとキャップ内の空気が冷やされ、結露が発生します。
少々の結露は気にするほどの問題ではありませんが、それでも書き出しのインクが水っぽくなったり、ニブやキャップの内側が汚れる原因にもなるので、積極的に歓迎すべきことではありません。
しかしソネットのような気密性の低いキャップではキャップ内外の空気が適度に入れ替わるため、結露を防ぐことができます。

一方で、気密性が低いことによる弊害もあります。

まず第一にペン先が乾きやすいこと。
この問題はソネットユーザーの間では良く知られており、話題にされることも多いです。
ペン先の乾燥を嫌ってキャップの隙間を木工用ボンド等で塞いでしまう人も居るようです。
しかし、私が実際に利用した感想では、日常的に使用するのであれば実害が出るほどの乾燥は起きないようです。
ペン先を上に向けたまま長期間放置するのはさすがに問題だと思いますが、最低でも数日間隔で使用していればペン先が乾燥して書けなくなるような問題は発生しませんでした。
もう一つの問題は、蒸発によるインクの消費増大や濃縮です。
ソネットはインクフローが良いペンで、字幅も国産に比べて2段階ほど太いので、元々インクの消費が激しい傾向があります。
実際に毎日使っていると、ソネットのXFとカスタム74のFでは同じ筆記量でも体感で2倍程度インクの消費量が違います。
当初はインクフローの良さや太い字幅の影響でインクの消費が激しいのかと考えていました。
しかし、諸事情で1週間ほど使用せずに放置したことがあり、その後使用を再開した時にインクの残量を確認したところ明らかにインクが減っています。
また、インクも濃くなっており、セーラーのブルーブラックが黒かと見紛うほどに濃縮されていました。
乾燥によるペン先の詰まりなどの問題はなく筆記に支障はありませんでしたが、詰まりやすいラミーの古典ブルーブラック等を入れるのは怖くなってしまいました。

長々と書きましたが、キャップの気密性の低さもペンの個性の一つだと割り切り、個性を理解した上でうまく付き合えば面白みを感じることもできると考えています。
明るい色合いのカラーインクを入れて徐々に濃縮されていく過程を味わうのも面白いと思います。